1980

特急にのり山奥の街へ行った。地理的には隣にある領土なのに、鉄道網の関係で回り道をしないといけない。関所で通行手形を求める必要はないので、今や大した問題ではない。

トウモロコシかススキのような植物が植った畑を通り過ぎた。サトウキビだったかもしれない。いや、ここらは寒いのでそんなことはないのだろうけど。サトウキビといえば子供の頃に、薩摩から来た女がくれたのをしがんだことを思い出す。繊維を歯でしごくと甘い汁が出てくると言われたが、その味はあまり覚えていない。

季節柄、そこかしこに柿が実っている。焼酎で渋を抜く方法を教えてもらったが、わたしは柿を食べると吐いてしまう。ヒトは身体が受け付けないと本当に排除しようとするのだ。トイレで吐いた後気を失って以来、二度と食べようとは思わない。

気がつけば遠い山並みに西陽がひろがり、名を知らぬ大きな川には白い半月が浮かんでいた。時折、故郷が恋しくなる。