1035

あのひとのことを段々思い出せなくなる 笑ったときの糸みたいな目とか 日焼けした逞しく腕とか 大好きだったのに どんなだったか言葉でしか覚えていない 忘れることと思い出せないことは似ていて でも思い出せないほうが悲しい そうして思い出せたことは ときに胸をずきずきと痛ませるのだった

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1034

雪が降ったが昼前にはみな溶けてしまった ふかふかの白い綿あめのように降りしきった雪が 優しく身体を包んでくれないことも 街を埋めつくす白さが高潔である一方で悪魔のように残酷であることも ここらの人ならみんな知ってる

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1033

誰かがその女を探しているらしい 構内放送で繰り返される名前 とても珍しい苗字と (もちろん発声されるときに漢字がなんであれ問題ないのだが) 初見では正しく読むことは難しい古風な名は 一度覚えたら忘れられることがない印象的な不思議な響きを持っていた 恐らく同じ名はこの世にふたりといないだろう 構内放送はしばし経ち 再び探している旨を繰り返す もう死んだはずの女 この世にいるはずのない人間の名を

この目で確認をしに行くべきだったのだろうか?

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1032

クリスマス 家族への贈り物はちょっと良い肌着か靴下と決めているのだけど それでもなかなか種類が多くて迷ってしまう 別に贈らなくてもいいし 祝う由縁もないのに 街中の飾りは綺麗でわくわくするし ギフト用の包装紙は華やかでつい 何か包んでもらいたくなるのだ

そういうわけで百貨店で買い物を済ませ あとはクリスマスを待つばかり 信仰なき羊たちがイルミネーションの光に誘われて 今年一番の冷え込みになった通りを歩いてゆく それだって悪くない 主が来ても来なくても 笑えよ 来年のことならもう来月の話だから

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1031

カレンダーをもらった 自分の部屋に飾ってはいないのだけど家の中に毎年 同じ会社のものを飾る定位置がある それは国内の風景写真が全体の6割くらいに印刷され 下には1ヶ月分の日にちが書かれているシンプルなデザインだ どこかの絶景とか 珍しい花や鳥が写っているわけではないので特に記憶にも残らない けれど下のほうにどぎつい蛍光色の緑色の線が塗られていて その色ばかり覚えている 給湯室でその事を話していたら相手も同じだったようで 親切にももらってきてくれた なんとなく これでもういい年が迎えられそうな気がした

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1030

また何処かで会うかもしれないし もう一生会わないかもしれなくても 二度と思い出すことがなくても大したことないじゃない どうせ百年後にわたしがいることはないし なんらかの事情で存在が抹消されても 実在していた そのことを知っているのは自分だけで充分だ

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先祖の供養が如何に大切であるか 老婆は熱心に話し 若者は曖昧な笑顔で生返事をしていた 成功したいなら 富を築きたいなら 祈りなさい 感謝しなさいと彼女は嬉しそうに 地獄の苦しみを味わいたくないでしょう あなた ××みたいに×人も殺したら千年地獄で過ごすことになるの 嫌でしょう そう続けて わたしは50歳から教えを受けてもう20年経つのよと言う その歳まであらゆる神の存在に縋ることなく生きられたとは

祈れば資産が倍になったのよ あなた お金は貧しいひとのところへいくと思うでしょう 違うのよ 祈るひとのところへゆくの ねぇお金持ちになって成功したいんでしょう

 

わたしの神さまは欠伸をして「昼飯なに食べたい?」と言った

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1028

今夜はとても冷えている 雨が降り出せば雪に変わるだろうが 空には満天の星が光り輝いているので その心配はいらない

街へ働きに行った者の何人かは 既に村へ帰ってきていたが 春からまた更にこちらへ戻ってくるという 更にその内何人かは家族を増やしているというのだから大したものだと思う 乳飲み子を抱いた女たちがみな聖母に見える まるで神話のように

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1027

車窓から見える景色は夜 光のない世界が広がっている なんだってそんなに暗いのだろう 月も雲に隠れて 柔らかな背もたれの椅子がある車内だけは煌々と明るく 眠ることもままならないのに

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1026

囲炉裏を囲んで酒と料理を楽しんだ 昔ながらの生活を体験することで 古き良き時代に郷愁を感じるというのか あるいはもっと人間の原始的な本能に近づきたい -燃える火を囲んで食事をする- ということを元来求めているのかもしれない

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