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きっとこの先もずっとボタンを掛け違えことに気づかないで すれ違って同じ線の上を生きていく 繋がらない会話の糸は細い絹糸のように繊細で 絡まりやすくて 千切れはしないのに どうして 模様を織り出さない

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素敵なかたちの照明を見つけた 高さを調べたら大好きなあの人と同じだけあった わたしの部屋を照らし出してくれるだろう コードを繋ぎさえすれば ちいさな電球でも暖かい光を放つだろう 古びれない曲線の滑らかさを美しいの一言で終えるには惜しいけれど 他に適切な表現もない 光よ

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みんな嵐の話をしてる それは本当のことだし たぶん来週もまたやってくる 十代のころ 暴動なんて思いもよらなかった そのくせパンクが好きだったなんてさ 色々試したけどすぐに飽きてしまう 世界を見てくるなんてビッグマウス叩いた割には波に乗り遅れたね 走れよ 崩れそうな吊り橋を 駆け抜けて来いよ 振り向かないで 怖いものなんかなかった オバケとママ以外なにも 進めよ 速度制限のないムーヴメントに今度こそ乗るんだ 冷えたビールが待ってる さぁ行けよ 厚底靴を履いたときの走り方を忘れてしまう前に

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誰とでも寝ることを辞めたのは あなたを愛しているから あなたが存在している限り 他の誰の肉体を介してもあなたと交じり合うことはない それはかつてわたしが神の存在を あらゆる肉体を介して求めていたように
あなたがわたしを愛していない世界に わたしたちが存在しているという残酷さ その生命の脆弱さ いずれ壊れる肉体と朽ちることなく語り継がれる魂の永遠という幻想 わたしはこの世界であなたを愛する

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遠い世界のひとからの贈り物が 近いひとを経由して届いたので なんとも不思議な日だった しかし誰でも血の通った人間なのだ

慈善活動の参加を申し込むともう満員ですとの返事 それは何より どんな目的であれ参加者がいるのは悪いことじゃない 結局1日だけ行くことになった わたしの目的はハリウッドスターのように慈善活動をして皆んなに喜ばれること 子供たちの笑顔を見ること

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目覚めてすぐに祈るための愛があるころはよかった 手に入らない幸せを願うだけで健やかな気持ちになれる気がしていた
カーテンを開けると水色の空気が部屋に満ちるのはベランダの床を青く塗ったからだろうか 南向きの窓から風と朝の光がはいる ベッドから抜け出してソファに寝転がりとっておきの小説を読む これは夜ではなく絶対に朝読みたいと思っていたから そういう話だったから

子供のころ 丁度今頃だ 10日間ほどのサマーキャンプへ連れて行かれるのが大嫌いだった ホームシックにはならなかったけど よく知らない人たちと何日も一緒に寝食を共にし 登りたくもない山道を歩いたり 踊りたくもないダンスを覚えさせられたり しまいには飾る気になれない記念品を作りろくな思い出がない -ああ!ただひとつわくわくしたのは木の上で眠った翌る日 枕元で蝉が羽化したばかりで薄緑の羽根をつけ じっとしていたのを見つけたことだった- だけど サマーキャンプへ連れて行かれた子供たちの話を読むとき(それは往々にして楽しい記憶の物語ではない)どれほどの苦痛であるかを 身を以て理解出来ることだけは良かったと思う

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喫いかけの煙草をひとくち頂戴と言って加えたフィルターが やけに湿っていた夏休み ふたりともまだ背伸びばかりして大人じゃなかった頃 とりとめのない話ばかりして 今ではもう何も覚えていない そう 名前すら忘れてしまった 彼は それから色々あって 今では7人の子供と妻を養っているらしい というのを噂で聞いて そういえば野球チームを作りたいと言ってたのを思い出した

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帰らなかった子供の齢と 帰らなくなってからの時間がおあいこになって 次の夏からは遠ざかってゆくばかり 歳をとらない写真のなかの子 あの夏の日をまだ覚えていて 忘れることもないだろう 誰もが漠然と助かるに違いないと思っていたのに駄目だった 波打ち際には涙が押し寄せる 来年も 再来年も

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ちょっとした休暇がはじまるので浮かれていたら 今この時間が一番楽しいのかもね と言われて 確かに海で泳いだり 浴衣を着て祭りへ行ったり 麦茶を飲みながらゆっくり高校野球を観るのも楽しいけれど 期待することこそ幸福なのだというようなことを 高名な哲学者も言っていたのを思い出した

故郷から恋人が訪ねてくる青年は いつものように表情はあまり変えずにいたけれど 白板の日付を間違えて書いていたので 伝えると少し日焼けした頬を赤くしていた