1069

森へ行った 草がぼうぼうと茂る間に土と落ち葉で澱んだ泉があったのだけど 綺麗に刈り取られ 小洒落た白い鉄製のテーブルセットまで置かれて どこから運び込んだのか泉のほとりには小舟まで置いてある 森の主が手入れをして庭にしてしまったのだ

清く いつまでも無垢であることを保つためには 手付かずのままではいけない 泥だらけで汚らしく誰にも触れたいと思われないこととは違うのだと主は言った

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1068

北国から小包 明るい水色の大きな箱で届いた なかには色とりどりのお菓子や きれいなカードなんかが宝箱のように詰められていて わたしの心は彼女と出会ったときの年齢に戻ったかのように弾んだ 舌が青くなるキャンディなんてもう長いこと舐めたこともないのに いつまでも彼女のなかでわたしは子供のままなのか それはそれでいいことなのだろう

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1067

文章を書き写しては翻訳 それは選んだ言葉の羅列であり わたしの言葉ではない なるべく的確な単語を選び 行間を読みながら繋げただけの文章 わたしの世界にあるだけの 限られた 嘘

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1066

初めてキスをした夜 雪が舞う鄙びた駅のホームで恋に落ちて以来 心は犬釘でしっかりと打ち付けられたレールのように動くこともない そのことをあのひとは知らないし 望んでもいない

 

暗闇のなかで目が覚めて 部屋に誰もいないことを確認した 二重硝子の窓はきっちりと閉じられ  月の出ない空は漆黒の闇をもたらす わたしはあのひとにとって誠実であれたのだろうか? 愛するためについた嘘の数々を忘れる日は来るのだろうか

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1065

何事も為せないとしても構わない 早くこのときが過ぎ去りますように

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1064

もう陽が昇って 明るくなった一月の街 とおりは静かに凍え 息を吐けば白く曇る

 

あのひとは空の色が違うといった 今はもう何処にいるかも知らない世界で一番好きなひと 僕が暮らす街の空はさめざめと青い色をしているといった わたしはその空の色を知っている 灰色の街の 僅かな晴れ間に覗く氷点下の空 鳥は渡り 河は流れる

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1063

大勢の会いたいひとがいて それを邪魔されるとか 拒まれるということはないのに すっかりダメになってしまったことを 許してなんて言えない 太陽の温度も眩しさも忘れてしまったみたいに 今は言葉すらうまく選べない

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1062

中学生のころ 長い髪は黒か紺色のゴムで1つに束ねるか 二つに分けて三つ編みにしなさいと決められていて 今思えば大体みんな守っていた その頃はまだそのくらいしかヘアアレンジが無かったというわけでもないけど 仕事をするようになったら三つ編みにするのが一番楽なので ある意味では理にかなっていたのだろう

その頃私の髪は脱色して後ろを刈り上げたおかっぱ頭だったから 束ねることもなにも出来やしなかったけど

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1061

あらゆる可能性に満ち溢れていた 希望は若さと共に なんの保証もなくただあった 戦争は起きなかったし 徴兵された恋人もいなかった 何かに反対した罪で牢屋に入れられることも 誰かと血が流れるほどの喧嘩をすることもなく 人生でもっとも美しいとされる年頃 青春を謳歌する振りに専念していた 何の不自由もなく 存分に絶望する権利さえ与えられていた しかし疑うことだけを知らなかったのだ

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1060

冬は花が長くもつのがいい 冷えた薄暗い玄関で 光が射すわずかな時間 静寂のなかに佇む色彩を愛でる

 

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